サンタ最強童貞説
一応「別れるか否か!」「今後どうするか」の相談の日が迫ってきている。
みんなに言わせると「なんだかんだゆるゆる続きそう」とのことだが、奴はみんなが思っている以上にさっぱりしているので、決断したら多分覆らない。
だから私は(そもそもこっちが言い出しっぺだし)破局に一票投じているが、そのことを思うと必ず考えてしまう事がある。
それは
「サンタ最強童貞説」だ。
これは我々のクリスマスシーズンの鉄板ネタなのだが、多分誰にも話したことがないのでちょっと共有してみようと思う。
なんだよ甘酸っぱい思い出じゃねえのかよ、通常運転かよ、と思うあなた。
私にとってはかけがえのない思い出なのである。君は煮物には必ずしいたけを入れるほどしいたけが好きかもしれないが、私はすべての料理からしいたけを排除するぐらい苦手だ。
好きな食べ物がそれぞれ違うように、なにをあの日の恋の思い出とするかも人それぞれだ。
話を戻す。
私たちは家族バレを恐れて毎年クリスマスはシカトし続けてきた。
毎年、「では、今年もクリスマスはお家で唐揚げ、という方針で」と通話で話していたら、自然とサンタの話になった。
いつまでサンタを信じていたか、とか小2の時のクリスマスプレゼントが図鑑とラフカディオ・ハーンの「怪談」だった、サンタになるには資格がいるらしいなど話しているうちに、奴は言った。
S「サンタって一体なんだろうねみんなが家族だの恋人だのと過ごしている日にゴリゴリに働いてる」
S「それができる人ってさあ、結構寂しい境遇の人だよね」
私「しかも老人、かつ元気で一晩のうちに世界中にプレゼントを配る能力の持ち主……。」
S「サンタってさあ、30までに童貞を捨てきれなくて魔法使いになってしまった人の集まりなのでは……!」
私「それなら納得がいく!」
なんのこっちゃわからないと思う。
ひと昔前、30過ぎても童貞のままだと魔法使いになる、というジョークがネットを中心に流行っていた。
そこから着想を得たのだ。
30まで童貞を守り抜き、その後も清い体を保ち続けた者はとんでもない魔力を手に入れることができるのではないか。
そう考えると、「サンタ」とされている絵が老人なのも合点がいく。
しかもサンタの起源は聖ニコラウス、という説もある。聖人なら童貞の可能性もあるかもしれない。
選ばれし老獪な童貞達が夜空に涙を落としながら、持てる魔力を使って全速力で飛び、プレゼントを配り回っているのではないか。
以上のことから私たちの間では、サンタ=童貞のジジイ、ということになっている。
トナカイなんて居なくても、自力で発光するし飛ぶ。荷物係みたいなもん、とも言っていた。
そして、魔力は年齢と清らかさに比例して強くなるので、素人童貞は飛べない。
あと、魔法使いになりたての30歳なりたてほやほやの奴は「3秒間だけちょっと浮く」みたいな地味な魔法しか使えない、やはりサンタは「ソープにも行かず純潔を貫いたエリート集団」ということで決着した。
これが「サンタ最強童貞説」である。
ちなみにトナカイも童貞だけを集めているらしい。
甲州街道の上を物凄いスピードで光りながら飛ぶ、目に涙を浮かべた童貞のジジイ。それが私たちのサンタさんなのである。
それからしばらくの間は、街でサンタクロースの飾りを見るとコソコソ「童貞だ」とか、サンタの着ぐるみを着ているチャラそうなお兄ちゃんに遭遇すると「あいつはおそらくもう飛べないだろう」と非常に悪趣味な会話をしていた。
さて、問題は別れてしまった後にこういった冗談に乗ってくれる人が現れるかどうか、ということだ。
大学時代アプローチを受けた人にジャブを打ってみたら「なにそれ(*^o^*)」と返ってきて、ひどく落ち込んだことがある。
なにそれじゃねえよ、こっちはボケてるんだよ、それをどう扱うかを見てんだよしっかりしろや!!!!
と、それが決め手となり、その人と疎遠になるようにフェイドアウトしていった。
もちろん人に「サンタ最強童貞説」を押し付けるつもりはないけど、これくらい真面目に冗談のやり合いができないと多分つまらなくなって死ぬと思う。
どんなに美味しいご飯を食べさせてくれても、素敵な贈り物をくれても、話が続かなかったら息苦しくなってしまうだろう。
この後4年半とちょっと、会話でもたせてきたようなものなのだ。
「お前よくそれで電車乗ってきたな」という格好で現れても、寝坊した挙句ドタキャンされても許してしまうのは、おしゃべりが得意な人だから、といっても過言ではない。
別れてしまったら、しばらく思い出して「ウッ」となってしまう思い出はなんだろう、と数えたとき、割と上位に食い込んできたのがこの話だった。
もちろん人に話すつもりは毛頭ない、恥ずかしい思い出もたくさんあるけれど、なぜかこの話だけは私の中で特別な位置にいる。
「少子高齢化が進むと、サンタは増えるが、プレゼントを受け取る子供が減ってしまうのでないか」
とヘラヘラしながら勝手に日本のクリスマスの未来を憂いた日はまだ学生だった気がする。
女友達でもそうだが、私を真面目にヘラヘラさせてくれる人、そして本当に真面目になっても気にしないでいてくれる人の存在はとても大きく、ありがたいのだ。
私という人間を面白がって観察してほしいのだ。
それが、上手だった男性は恋心を抱く抱かないは別として、実は他にもいる。
でも、そのうちの一人がたまたまS氏であり、私も面白がって観察していたのがたまたまS氏だっただけなのだ。
偶然、タイミングが合ってしまった。
本当にただそれだけのことだったのである。
童貞のサンタは今年も空を飛ぶのだろうか。