変わり玉記録帳

日記・文章を載せる場所。個人文章道場も兼ねる。脳みそ断片保管庫宇宙本部。

脆弱な光

ここは文章力を鍛えるための道場だった……。ということで、今日書いてみたショートショートを、夜中なのでこっそり載せます。人目に晒します。


大学の課題、ということらしいので、①2時間以内、②指定の字数制限の2つを守って書きました。処女作。


粗削りもいいところなので、私の友人の文芸・文学・創作専門の皆様(本当にいる)、コメント欄でなくてもいいので、何かしらで辛口に意見くださればと思います。喜んじゃうから。

鉄も人も打たれて強くなる、斬れ味が増すと思って、祈って。


以下内容。

**********


「私はあの子たちにとって絶対的な存在だ。」

毎日新しく調えられるあの子たちは、それぞれに可愛らしい。お行儀よく微笑み、規則正しく整列し、ただ美しくそこに居る。退屈を知らないのか、誰もそれに異を唱えない。ひたすらガラス越しの世界を眺める。尤も学や知恵がなくとも、座っているだけでそれなりの価値があの子たちにはあるのだが。

 

彼女らには何の問題も欠陥もないが、一人では何もできないし外にも出られない。でもあらゆる人々から支持され、愛されている。それが、致命的に世間知らずで無力なあの子たちの価値なのだ。

 

ここで生まれたあの子たちと違い、私は遠い所からここへきた。その間に様々なことを知った。「私がいないと、見た目だけの無知蒙昧な彼女たちは外に出られない。」ということも。だから私はあの子たちの「絶対的な存在。」

 

私があの子たちを連れ出してやらないと、彼女たちの本当の価値は外の世界には届かない。眺められるだけで己の価値を発揮できるのは、写真や絵くらいなのだということも、ここに来る途中で学んだ。人々から愛されるものの価値を届ける私の仕事は、とても崇高だ。私は彼女たちに見た目では劣る。でも多少高慢でいていいのは、美しいだけの無知な者を、賢い私が導き救うから。私は彼女たちの光。だから私の仕事は人々から感謝されるべき尊いものなのだ。

 

***

 

 北風と共に洋菓子店のかきいれ時はやってくる。人はどうして寒くなると急に甘いものを欲するのだろう。理由は何かで読んだけど、忘れた。忙しいことに変わりないし。旬の素材とクリームで彩られた秋冬の新作は飛ぶように売れていく。あ、またお客さん。さあ仕事。

 「ママ、イチゴが乗ったやつ!」「じゃあ、私はこれにしようかな、パパにはかぼちゃのやつを……。」

 

私の出番だ。指名されたあの子たちは、拡げられた私の中に詰められる。ぴったりと、隙間なく。これで彼女たちは本当の価値である「美味しさ」をこの家族に知らしめることができる。あの子たちを持ち帰れる有難みを、きっとこの子連れは私に抱くだろう。考えるだけで素晴らしい瞬間。ああ、私だけの尊い仕事。

 

「ママ、ケーキ!」「そうね、悪くならないうちに。箱からだしてくれる?」「はーい!」

 ビリビリビリ。刹那、私の体は小さな子供の手で切り裂かれていた。なぜ?私がいないと君はお家でケーキなんか食べられないのよ?どうしてこんなに酷いことをするの?尊ばれ感謝されるべき私に。侮辱だ。卑劣だ。そんな思いを余所に、私の裂けた体から露わになる可愛らしく無知な彼女たち。

 「わあ、食べていい?」「手を洗ってね。あ、またこんなに破いて。箱はちゃんと捨てなさいよ。」

カサ、パタン。惨めな思いに渦巻かれているうち、辺りは真っ暗になった。「箱」の体裁を失った私は知っている。ここは「ゴミ箱」だ。

 「ケーキ、かわいくてあまくておいしいね!」

無知な者たちの愉快な笑い声だけが私のもとに届いた。