マザコン過ぎて彼氏ができない(後半)
「ベストセラーですが、やっぱり森見登美彦いいですよね」
「京都に行って偽電気ブラン飲んできました!」
「いいですね〜!」
「お酒飲むんですか?」
ーー以下よくある流れ
でもって開催された「日本酒を嗜みながら読書について語る会」
周りからの期待を一身に受け、だんだん行きたくなくなってきたとは言えないまま当日を迎えた。
とても気まずい。
余裕を持って出たはずなのに10分遅刻している。
相手は公務員として働いているとのこと、夕方の約束にすら遅刻する人間と馴染むわけなかろうよ……と思いながら街を疾走し、なんとか合流。
遅刻を謝り倒してちゃんと顔を合わせてみたら……。
おいおいなんだその清潔感。
めっちゃいい感じのジャケット着てますね、よく見たらお顔もそれなりに端正でいらっしゃる。ちなみに私のデニムジャケットはGUで、顔は見てのとおり散らかってます。
できる限り身ぎれいにしてお会いしたかったが、前日に気でも狂ったのか前髪を裸眼で切る暴挙に出てしまい、がっつり眉毛が出ている。そして何度でも言うが太っている。
この時点で既に解散したい。
時間に遅れ、物を忘れ、締め切りを守れない人間からすれば公務員は畏怖の対象なので、職業リスペクトを述べまくった。果てには「すみません。去年ひと月分年金納めるの遅くなって追納しました」と本気で謝ってしまう始末。
もう謝る事もなくなってくるあたりでようやくお店へ到着。おすすめとのこと、予約を取っておいてくれていた。ひえーありがたや。
こちらの仕事についてボチボチ話し終わる頃、
「『夜は短し歩けよ乙女』なんの季節が一番好きですか?」
我ながらいい話の持っていき方だと思う。季節は夏で一致。そこから派生する作家の話へと転び、退店までひたすら本の話。
その後はちょうど桜も咲いてるしお花見がてら、と缶チューハイ片手に街を一周して解散。
座っているより気が抜けたのか、なんとなく雰囲気も柔らかくなって、下手にお店に入るよりも楽しく話ができたように思う。
え?? これいい雰囲気なのでは? と思った方。半分正解です。
その日はいい感じでした。その日は。
家に帰ってお時間を頂戴した事へのお礼を送ったら、やり遂げた感でいっぱいになってしまい、正直次回だのなんだのは面倒になっていたのである。
「今度はお互い同じ本読んできて小規模読書会やれたらいいですね!」
なんて言うんじゃなかった。
さすが仕事のできる人間、気がつけば課題図書がサクサクと決まっていく。
(本買うかどうかは様子見で……「まだ読めてません〜!」の応酬で流れるのが定石)
と放っておいたら、つい先ほど課題図書を手に入れたとの連絡がきてしまったのだ。
こんな事を書き散らかすぐらいなので、本は買っただけでまだ第一章も読み終えてない。
何がそんなに気に入らない? と聞かれると困ってしまうのだが、話せば話すほど明らかになるお育ちの良さに気後れしてしまう。
・勉強に専念させるために部活は週2日まで
・親の勧めで安定できる材料をとったら○大の○学部だった
・親が浪人許してくれなかったから○大にするしかなかった(○大は十分すごいです。私じゃ入れない無理)
・部活なんかおまけ、試合は早く負けて遊んで帰りたかった
言わせていただきますがお坊っちゃまーー
親が親がってうるせえんだよ、どうせ私大なら私の母校に行きたかったと宣うが、受けたかったら説得しろ、それでも浪人したかったら土下座しろ。私はした。
安全な道を取ったことを親のせいにするな。運動部じゃないと格好つかない? 馬鹿を言え、ちゃんとやらない方が格好つかないわ。
ハングリー精神の塊だった高校時代に会っていたら間違いなく目の敵にしていたと思う。
特に教育に力を入れていたわけでもなく「力が欲しけりゃ自分で動け、お金が必要なら説得しろ」が基本の個人成り上がり制度の中で育ったど根性小市民なので「親が〜」にいまいち賛同できない。
ちゃらちゃらはしていない。むしろ真面目だ。真面目さ余って本の内容の解釈違いで友達とガチンコの喧嘩をする、私が通ってこられなかった素晴らしい青春時代を送っている。
だけどなーんか洒落臭さを感じてしまう。
先走り過ぎだが、彼にろくでもない冗談を言える日がくるのだろうか。今のところお友達になることも難しいという読みではあるものの、とりあえず課題図書を片付けるしかない。
マザコンなくせに、親の意見に素直に従う相手をこき下ろす、棚上げも甚だしい内容になってしまった。
ただ、親の勧めに唯々諾々と従うことと、日常会話において母とのやり取りに近いものを望むのはちょっと違う、と私なりの意見をはっきり述べておこう。
……「御子息」という言葉が似合う公務員とのこの先は一切期待しないでください。
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ちなみに飲みに行ったのは3月末、本を買ったのは4月2週目くらいです。