変わり玉記録帳

日記・文章を載せる場所。個人文章道場も兼ねる。脳みそ断片保管庫宇宙本部。

evil eyes

実はもう一つショートショートを書いていました。これはSさんが「テーマ『石油王』にする。」と言っていたので、便乗して書いてみたものです。

国際的な諸々全然分かんないのに下調べもせず書いたものです。お目汚し失礼。

記録のために。あっ!もちろん感想(ブーイング含む)も待ってるよ、げへげへ。

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今はどちらかというと冴えない部類だが、小さい頃はちょっとしたスターだった。BB弾集めでは誰にも負けなかったし、最初にあの公園でカブトムシの幼虫が採れることを知ったのも僕だ。ずるを疑われることもあったけど、そんなことはしていない。何と説明すべきか幼い当時から考えあぐねている。もっとも、今後他人にこのことを明かすつもりはないけれど。端的に言うと、僕には地面の中が見える。
 
 歳を重ねるごとに分かったことは、その中でも「自分にとって意味や価値のあるものしか見えない。」ということだ。その証拠にもうBB弾は見えない。オオカブトムシの幼虫はぼんやり見えることもある。大概そういうときは金欠だ。とにかく地面があればなんでもいいようで、クリスマス時期にはプロポーズに失敗した男が投げた婚約指輪を濠の中から見つけてしまうこともある。こんなものにも価値や意味を見出すようになったのか。BB弾マスターだったあの頃に戻れないものかとため息を吐きつつ、自分のセンサーに引っかかったものは、指輪の貴金属としての価値なのか、それとも、それに込められたある男の決意になのか考えてしまう。
 
見えなくなったものもあるが、一般・客観的に価値あるものと、主観的な価値あるもの、その違いを知った今はいろいろな物が見える。不便な体質ではないので放っておいているが、もしこのことが他人にばれたら、僕はあっという間に何かの機関に「保護」という名目で拉致されて、金儲けの道具や実験動物にされてしまうだろう。だから何を見つけても無表情でいることにしている。それが習慣づいたおかげで「何を考えているかわからない人」扱いされてしまったが安全な暮らしのためには仕方のないことだ。
 
ある日突然実家から電話が掛かってきた。ショックが大きくて最低限のことしか分からなかったが、妹が難病患っていることが発覚したようだ。余命幾年、というほどではないが、かなり根気のいる治療が必要らしい。まだあいつは大学を出たばかりだ。女の子が一番楽しい時期だろうに、夢はお嫁さんでママになることだった子が。しかしうちは裕福な家ではない。僕の蓄えを足してもあっという間に貯金は底をつくだろう。
「わかった……。なんとかするって伝えて。」
それだけ言って電話を切った。
 
 翌日会社に辞表を出した。周りは驚いたが何も言わずに引き継ぎだけして会社を出た。その足でパスポートを取り、かなりてこずったが通訳の手配もした。パスポートが出来上がるまでに家を引き払い旅の用意をした。持っているお金を全部現地の通貨に換えた。飛行機のチケットも取った。もう日本の地面の中には何も見えなかった。
 
 
 「おいY、ここにはあるか?」
「ないです。」
通訳を介してなされる会話。ドローンが捉える映像越しに僕は毎日地面を見ている。スーツなんか着る必要はない。今の僕の仕事は、裏の「石油王請負人」だ。そういうと聞こえはいいが、石油を採掘して、いわゆる「石油王」になりたい人のために、僕は自分の眼を売り物にしたのだ。僕は「石油王志願者」と契約を交わしたと同時に、彼らの犬になる。同時に「国の研究員」にも志願した。あっという間にトップの研究機関に入ることができた。研究所に赴いては体の隅々を調べられている。もちろんそこからもお金が入る。
「あ、あそこに少し石油が溜まっているのが見えます!」
「よし、取りに行くぞ。」
 
そうすると、僕は首輪を付けられて移動を始める。「ここ掘れワンワン」で石油が出れば、その利益の半分が僕に入ってくる。割高だが、「邪眼」と呼ばれるようになった僕の目に失敗はない。最近は貴金属も請け負うようになった。おかげで実家にはたくさんの仕送りができている。あいつの病気は治ったのだろうか。手紙を書いても返信はない。検閲で引っかかっているのか、と聞いても、何も届いていないと返される。5年が経った。10年が経った。
そしてある時1通の手紙が届いた。
 
「元気ですか。母です。
 
まだ地面を見ているのかしら。小さい頃からそうだったわよね。『宝物探し』上手だったわよね。おかげさまで私たちは幸せに暮らしています。あなたのこと、最近ニュースで知って筆を執りました。日本でも大きく取り上げられています。あちこちから取材がきて大変です。
でもどうやってあんな大きなお金を仕送りしてくれていたのか分かって安心したわ。悪い商売でも始めちゃったんじゃないか、って心配してたのよ。あなたのことは今まで国家機密で、最近論文が発表されたんですって。
 
あとね、せっかくだからって家、建て直したの。あなたが継ぐことになるからって。でも帰っておいで、と言いたいけれど、無理よね。これからもそっちでお仕事頑張って頂戴。
 
そうそう、あの子の病気ね、誤診だったの。何度も連絡したけど留守だったり、電話つながらなかったりして。気が付いたら住所もなかったから伝えられなくて。いっつも何も言わないんだから。今では結婚して1児の母です。……」
 
目の前が真っ暗になった。全部自分で選んだことだ。でもこんなことってあるか?国が僕に余計な情報を与えていないだろうことは予想していたが。仕送りし続けていた金で息子を探すこともせず、あんな手紙をよこしてくるなんて。特別に許可されていたこちらの住所を書かないエアメールを見てもなんとも思わなかったのか?
 
ふとこんな考えが頭をよぎった。「僕の能力は家族にはばれていた。」物心つく前の言動から、母親は「宝物」探しの眼に気づいていた。そして「いつか、それでお金を儲けよう」と決めていた。だから手紙も返さなかった。
 
今思えば、稼ぎの少ない家庭だったのに、兄弟二人とも中学校から私立校に通っていた。奨学金も取らなかった。習い事もそれなりにやっていた。きっと我が家に貯金なんかほとんどなかったのだろう。それでもゆったりと構えていられたのは、僕が将来、物の価値と、人生で本当に大切にすべきものが分かったとき、確実にお金になるものを見つけてくるからだ。僕が不器用なりに大切に思っていた家族とは何だったのか。プライドを捨てて、実験動物に成り下がって探していた石油で、石油王たちと僕の家族は裕福に暮らしている。
 
 今となっては国と家族、どちらが嘘をついていたのかわからない。ただその日から僕の足元にはただの砂地のみが広がるだけになった。
「ははは、これが普通の人が見ていたものなんだな。そりゃ、前を向いて気楽に暮らせるよな。」
 僕は今研究所に向かっている。今日が最後の勤務日だ。