【子供だましロマン派文学】「宿命の女」①
私はえらい無職なので、そんな大層なものではありませんが、GWはお勉強をします。
ということで久しぶりのロマン派ブログです。多分長くなるから前後半分ける、と思う。
前に書いたのは英ロマン派文学が発達した時代背景やその思想について、そしてロマン派文学とかなり結びつきの強いラファエル前派の絵画について書いたのですが、今回は実際に短い詩について、学生時代を思い出して書こうと思います。
John Keats “La Belle Dame Sans Merci”
私の推しです。
タイトルはカタカナ読みすると「ラ・ベル・ダム・サン・メルシー」フランス語です。
日本語訳すると「つれなき乙女」(私のいたゼミではこう呼んでいました)です。
「つれない」は「思い通りにならない」という意味でとってください。
つまり「一筋縄ではいかない美女」をモチーフにした作品です。
すでに日本語として定着している言葉「ファム・ファタール」。
大体「宿命の女」「運命の女」と訳されます。
いったいどんな女なのか。
関わった男の運命・人生をことごとく狂わせていく美女!
久しぶりなので、ざっくりざっくり行こうと思います。
詩の構成
4行12連構成のとても短い詩。形式は昔話や口承で伝えていく物語のような、第三者視点の語りのイメージを与える、Balladを用いています。
そして、12連の中で物語は大きく分けて4つの転機を迎えます。起承転結がはっきりしているので詩を読んでない、とりあえず単位はもらった、という人でも割と抵抗なく読めると思います。
本文読解
では本文。古い英語が使われていますがあんまり気にせず
1.
O what can ail thee, knight-at-arms,
Alone and palely loitering?
The sedge has withered from the lake,
And no birds sing!
鎧の騎士よ、どうしたのか?
ひとり、青ざめた顔で、なぜさまよう?
湖の草は枯れ、
歌う鳥もいないところで?
まず脚韻。-ingで音をそろえています。1行目と3行目も韻を踏むことがありますが、この作品ではずっとこの形式が続きます。
舞台は中世。中世の物語ではよく騎士が出てきますよね。
この詩は騎士の回想から始まります。
騎士はそれなりに地位の高い人物のはずですが、なぜ森をさまよっているのでしょうか。
しかもかなり具合が悪そうです。
そういえばこの物語の季節はいつだと思いますか?
答えは、晩秋・初冬です。「湖の草は枯れ」こういうところから物語の背景を探っていきます。
2.
O what can ail thee, knight-at-arms,
So haggard and so woe-begone?
The squirrel’s granary is full,
And the harvest’s done.
鎧の騎士よ、どうしたのか?
やつれきって、苦しみに満ちた顔をして?
収穫が終わり、
リスも木の実を蓄えたというのに?
この部分は騎士の問いかけ。
読んでみるとわかるのですが、脚韻は見た目だけ。 blank verse になっています。ちょいちょいあります。
3.
I see a lily on thy brow,
With anguish moist and fever-dew,
And on thy cheeks a fading rose
Fast withereth too.
百合のように白い君の額に、
痛みと熱の汗が浮かんでいる。
君の頬の薔薇色が、
あっという間に枯れていく
ここ! そこそこ重要!
中世の騎士は聖母マリアに清廉潔白の誓いを立てます。恋人よりマリア様。
でもこの連ではその誓いが揺らいでいるのです。
百合は「聖母マリア・純潔」の象徴です。その白い額が痛んでいる、なにか異変が起きています。
そして、赤い薔薇はイエスの血の象徴。
騎士の信仰心・忠誠心が揺らぎ始めたことがわかる連なのです。
こんなふうにして植物や数字に隠された意味が分かると詩はとんでもなく面白く、気がつくと卒業後もゼミに入り浸っている、という恐ろしい事態が起きます。
ここまでが「起」
4.
I met a lady in the meads,
Full beautiful, a fairy’s child;
Her hair was long, her foot was light,
And her eyes were wild.
牧場で、ある女性に会ったのです。
とても美しく、まるで妖精の子のようでした。
髪は長く、足は軽やかで、
人を惑わせる目をしていました。
はい! きました、この女性こそがこの騎士の運命を狂わせるファム・ファタール!
めちゃめちゃ賛美してますね。しかも人を惑わせる目を持っているとのこと。
長い髪は奔放さを表し、男性を引き付ける女性の象徴です。
これは私の推測ですが、おそらくこの女性の髪は束ねたりまとめられたりしていなかったのでは? と思っています。なぜなら、この詩を題材にした絵画の中の女性はみな長い髪を下ろしていたから。もしかしたら「束ねられていない揺蕩う髪」というのも奔放さのキーになっているのかもしれません。
5.
I made a garland for her head,
And bracelets too, and fragrant zone;
She looked at me as she did love,
And made sweet moan.
ぼくは、花冠をつくってあげました。
腕輪や腰の帯も、です。
その人は、好き、といっているような目でぼくを見て、
かわいいうめき声をあげました。
プレゼントまで贈ってメロメロですね。女性もノリノリでいちゃついている様子が想像できます。私もいちゃつきたい。
このプレゼントがまた大事なのです。
前のロマン派ブログを読んでくれた人で内容を覚えてくれていたらはちゃめちゃに嬉しいのですが、環飾りは「自分の円環の中に閉じ込める」→「束縛」ということを表します。
……この騎士は3つも環飾りを送っています。相当思い入れがあり、自分の傍にいてほしい、ということが伝わってきます。
また女性も甘え上手というか惚れさせ上手というか。きれいに訳してありますが、甘い喘ぎ声に近い声だったのでは、とついつい勘ぐってしまいます。
John William Waterhouse – La belle dame sans merci, 1893
→ウォーターハウスはラファエル前派の画家だよ! ……これ、よく見ると騎士が女性の髪の毛の「環」の中に入っていませんか? 後半に期待ですね。
Arthur Hughes – La belle dame sans merci
→アーサーもはラファエル前派の画家だよ! よく見ると環飾りをつけていますね
Frank Dicksee – La belle dame sans merci
→ヴィクトリア朝の画家。ここでも環飾り。
6.
I set her on my pacing steed,
And nothing else saw all day long,
For sidelong would she bend, and sing
A faery’s song.
ぼくは、その人を馬に乗せて歩きました。
他のものは目に入りませんでした。その日ずっとです。
その人は、ぼくのほうにからだを投げ出し、
妖精の歌を聞かせてくれました。
ここでは、女性が騎士の五感をも虜にする場面です。
騎士は「ほかのものが目に入らないぐらい」一日中女性を見つめ、妖精の歌に耳を傾けています。
ちなみにキーツは肉体の変化を描写で人物の感情の変化を伝えることに長けた詩人です。
ここまでが「承」長くなるので後半に分けます。
詩の引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/La_Belle_Dame_sans_Merci
訳の引用元:https://blog.goo.ne.jp/gtgsh/e/730d3698115cfafb91987bb0c1fa42ab