変わり玉記録帳

日記・文章を載せる場所。個人文章道場も兼ねる。脳みそ断片保管庫宇宙本部。

甘やかな捧げもの/密やかに奪うもの(願いごと)

わたしにはちょっとした悩みがある。定期的にアゴに出来る吹き出物みたいな悩み事で、普通に過ごしているとケロッと忘れてしまっているのだが、ふとした瞬間に思い出してそのことをいじくって痛い思いをしてしまう。

 

ここずーっと、Sさんから「○○○○」と言われなくなったのだ。皆からすると「あー、そんなの当たり前、普通だよ」ってことかもしれないし、その言葉は自分には不似合いだということを悲しいかなバッチリ理解してしまっているけれど、やっぱり以前あったものがなくなるのはさみしい。

 

そろそろ慣れだとか、飽きだとかが来る時期なのだとしても、他のケースを体験していないから、上手いやり過ごし方もわからない。確かに言われなくなる原因、思い当たる節は、経過した時間の長さ以外にも結構たくさんある。

まず、わたしも肝心なことを言葉にするのを躊躇ってしまう。これは偏に恥からくるものである。あとは、太ったこととか、遠慮がなくなったこととか、傷つけてしまったこととか、あげると枚挙に暇がないが、こちら側も変わってしまったことが大きいのかなと分析している。

 

あとは、上に書いたようなことがもとでどんどん自信をなくしてしまって、変に距離をとろうとしたこともあった。そういう勝手な振る舞いをした後は、反省し色を示したくて、決まって平坦なテンションになる。そういうことも手伝って、余計にいろいろなことが伝えられなくなっていることも、よくないな、悪循環だなと思っている。

 

甘え下手なわたしは、日々当たり障りのないメッセージを送って、ぽつりぽつりとやり取りしている。しかし困ったことにもうすぐSさんのお誕生日が来てしまう。なにをあげようかな、よりも前に今年は考えるべきことが多そうだ。

例えば、何をもう一度伝えなおそうかな、とか。そんなの最重要事項はひとつに決まっているけれど、ただ単純にその言葉だけを連呼するのはわたしの趣味ではない。でも恋愛における、ある程度の盲目さは気持ちいいとも思っている。そのバランス感覚、恋慕の綱渡りをいつか楽しめてしまう日が来るのだろうか。

 

でも、わたしが今伝えるにしても、胸に秘めるとしても、取り組まなきゃいけないのは、彫刻家のような作業なんじゃないか、とぼんやり思っている。

 

誰が言ったか忘れたが、彫像を作るということは、自分が木や大理石を形作っていくのではなく、もともとその中に埋まっている輪郭を見つけて、掘り出すだけなのだそうだ。ああ、思い出した、運慶とミケランジェロが偶然にも似たことを言っていた、というのを授業か何かで聞いたのだった。

 

少し脱線したが、わたしもこの気持ちの中から伝えたいことを無理くり作って掘り出したり、こねくり回したりして伝えるのではなく、そのままの形を「S氏に対する感情」というでっかい塊の中に、素直な輪郭を見つけてやらなければならない時期が来たのだと思っている。

 

もちろんストレートな感情をそのままにぶつけることは一種の暴力であることは承知しているから、そのあたりは気を付けるつもりだ。大事にしたいのは、いつも自分すら目を背ける素直な気持ちにきちんと対峙してから言葉を選ぶということなのである。

自分すらつかみ切れていないものを、他人に差し出すのはとても怖いことだし、失礼だ。100%伝えたはずだと思っていても60、いや50%も真意は届いていませんでした~、なんていうのがわたしのような、意固地で、何でもかんでも恥ずかしがる人間のコミュニケーションなのだ。

 

しかし、素直になったところで肝心の4文字が出てくるとは限らない。わたしとて、そろそろわざと自分の望む言葉を引き出すようなことをしてみたい。知らないうちにわたしのペースに嵌めて、わたしだけが知っている曲に合わせて、手を引いてくるくると踊ってみたい。

 

さて、上にも書いたが、もうすぐSさんのお誕生日がやってくる。いつもどんな贈り物をするかということにばかり、頭を使ってきた。でも今年はちょっと別のことにも、はっきり言えば、ずるいことも考えてみようと思う。プレゼントはきちんと選ぶ。特に気取ったことをするつもりもない。

でもせっかくの日、あなたもわたしも心が気持ちよくなる、温めたネクタージュース、濃く作った窓辺のレモネード、日向の芝生の匂い、さらさらの浜辺に沈む足、そんなようなこと・感覚をわたしから思い出す、得るようなことがあって、彼が自然と、何の気なしに呟く、「○○○○」をわたしは狙っているし、手に入れたいのである。

 

何かをあげる日に、こっそりと何かを奪って満ちる。無理強いや罪悪感を覚える結末は不毛で、こちらの負け。慎重に、そして素直な狡猾さを持たなくてはいけない。

こんなにもわくわくどきどきする「悪だくみ」をしているのはきっと人生初だ。