助走をつけすぎて上手く踏み切りができないことってあるよね。(英ロマン派文学について、300%の助走)
先週末?週初め?にイギリス留学中の同窓生に、「イギリスにいるならロマン派読みなよ(圧)」と、強制レコメンドまがいをしてしまいました。……私がよくやりがちなやつです。
今日は自分の由なし事ではなく、「私のおすすめロマン派文学」について書きます。
注:しかし書きすぎてしまって、目次の最初の貢で5000字を突破してしまい、まだ助走だと思っていたらゴールしていた、ラスト一周あると思ったらもうお終いだった、現象が起きています。いい加減に「好い加減」知りたいです。全力投球したら肩ごとどこかに飛ばしてしまう、そういう人間を、そろそろやめたい。
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目次
・英ロマン派ってなんだよ。
・おすすめ作品(前期ロマン派二大巨頭)
・おすすめ作品(自然の美編)
・おすすめ作品(甘美・耽美編)
・おすすめ作品(絵画と絡めるよ)
……書き終わるのこれ?まあ今日はお休みだし、ブランクも長いし、ゆっくり・ざっくり・真面目なのか緩いのか、というテンションで書いていきます。たぶんネタバレとかしても面白く読めるものばっかりなので、みんなでオエオエしましょう。お紅茶おいしい。
■英ロマン派ってなんだよ?
ロマン主義の興りは各国で異なるのですが、イギリスの場合は18世紀後半から19世紀前半。貴族でありながら、後期ロマン派詩人として作品を残したG・G・Byron の死後急速に衰えていきます。
・古典主義との関係
古典主義は、「啓蒙!理性!知性!均一!自然!」など、感情よりも普遍性や普遍的真理に重きを置いたといわれています。最盛期のローマ帝国の文化を真似ていたので「古典」主義。だってヨーロッパの「古典」はギリシャ・ローマだからね!文化の源泉!!
前半(第1期)は前述のような内容が重要視された作品が目立ちますが、後半(第2期)はロマン派につながるような、「感情・想像力の再認識・過去への追慕」が見られます。
例:自然の捉え方で言うならば、
古典主義→整えられた庭・人工的で優雅な自然
ロマン派→ありのままの庭・うねった木・野性的 (W. Wordsworth, “Tintern Abbey” などにみられるよ!)
また、それまでは貴族のものだった文学(小説)が中産階級のもとにも届くようになった時代です。小説の地位が確立され、書簡体小説で有名な “Pamela” やゴシック小説が書かれ始めたのもこの時代です。政治や社会面では産業革命の始まりと、それに伴う中産階級の拡大、カトリックや非国教徒に対する迫害が少し落ち着く、といった感じでしょうか。
・ヴィクトリア朝との関係
そして、「道徳!敬虔!家庭の天使!富!産業革命最盛期による資本主義の激化!二面性(潜んだ欲)!自助!(self help)」といった言葉がキーとなるヴィクトリア朝。文学は主に中産階級によって支えられ、優れた散文作品を多く残しました。
また政治面では、それまでのイギリス史上最長の治世がなされたことでも有名です。表向きには「富裕層・中産階級の道徳が正しい」とされていても、社会の実態はそれとは大きく異なっていたのもこの時代の特色。上位層を中心に起こったC・Darwinの「種の起源」(「進化論」を書いたE・Darwinの孫だよ!)によるキリスト教離れ、中産階級と労働者階級の格差、劣悪な労働環境、女性の在り方とその文化(The Angel of House ⇔ Fallen women)、教育の変化etc……。「三巻本」や「貸本屋」なども登場した時代でしたね!
この2つの時代の、中産階級、女性と社会、社会における文学の役割と立ち位置の変容をみるに、ロマン派文学が隆盛した時代は、かなり目まぐるしく社会が変化していたのでは、と予想できないでしょうか?
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……長い。1000字書いてもまだロマン派本体に触れてない。どうなるのこれ。
書いてる方も不安になってきたんだけど。学部2年のレポートとかだったら、現時点でBはとりあえずもらえそうだよね。もうちょい肉付けしたら英文学史のテスト勉強中さまよってる子羊と化した学生の1匹や2匹は救済できそうだよね。
お昼寝挟みました。お紅茶もう一杯。隣の部屋で母ちゃんがインドカレー食べてる。
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・ロマン派の時代
上でも書いたように古典主義第2期には文学作品の中にかなりロマン派と通ずるものが見え始めています。では決定的にこういうのがロマン派じゃ!と言えるものはいったいどこの見出すことができるのでしょうか?
よく言われるのが、古典主義は「静」・「シンメトリー」に対してロマン派は「動」・「アシンメトリー」。「刷新・変容・異化」とひとところにとどまらないのが特徴です。しかし考えてみればそれも当たり前のこと。ロマン派の文学は人間(自然)の「ありのままの感情」や「思考」を描いた文学。動きがないほうが不自然。
そして当時の芸術家たちにそんな思いを抱かせた社会背景も激動そのもの。まずは世界のあちこちで革命がバシバシと起こります。古典主義から続く産業革命の加速・アメリカ独立戦争・フランス革命。後で述べますが、近くの国フランスの革命の理念は、イギリスの人々にも影響を及ぼしていました。自由・博愛・平等の精神に希望を見出していたのです。
また、A・Smithの「国富論」によってはじめて資本主義社会について体系的な言及がなされ、E・Darwinは「植物の園」で神の絶対性を批判。
このように、これまで「学問」は神学者達のものでしたが、学問は一般の人々にも与えられます。17世紀までは「神がすべてを司り、存在させ、動かしている」とされていました。となると、神学者たちがあらゆる学問領域を担っていたのも納得です。
しかし18世紀からは、「神は存在している。しかし、環境と人間が世界を回している」という考えにシフトしていきました。「『神は存在する』と考えているのは人間→神を存在させているのは人間なのでは?(W・Blake)」とか、「最初の人類を作ったのは神様だよ、でもそれ以後は……」とか「神の役割は最小限でいい。」なんて意見も。
こんなの当時の人にとっちゃ超大問題です。さらに、酸素や光合成が発見され、科学的分野もどんどん進歩していきます。不思議な自然現象や、自身の存在の仕組みや理由を、神様や超自然的なもの(霊的存在)のおかげ、だと思っていた人達、愕然。(私の推し)詩人、J・Keatsは “Lamia” の中でこのようにつづっています。
Do not all charms fly
At the mere touch of cold philosophy?
There was the awful rainbow once in heaven:
We know her woof , her texture – she is given
In the dull catalogue of common things.
Philosophy will clip an angels wings,
Conquer all mysteries by rule and line,
Unweave a rainbow, as ere while made
The tender Lamia melt into a shade. (Lamia, Part Ⅱ 229-38)
あらゆる魔力はただ冷徹な哲学(科学)が触れるだけで
消え去ってしまうのではないか?
かつては天に恐ろしい虹があった
しかし我々はもう虹の織物やその織地を知っている
彼女はありふれた物事のつまらない目録に収められてしまった
哲学(科学)は天使の羽を切り落とし
正確にすべての神秘を征服しつくし
幽霊が現れる大気を、地の精霊が住む坑道を何もおらぬ場所にし
虹を解いてしまう。まるで少し前に
あの優しきレイミアを陰に溶かしてしまったように
ここは今まで神秘的なもの・畏怖の対象だったものと、科学についての言及です。つまり「想像力の世界が科学(philosophyには「学問」・「科学」の意味もあります)によってぶち壊されてるよ、暴かれてるよ!おい!!!」という危機感を詩に込めたのです。……確かにロマン派の詩の世界は想像力の世界。詩人たちはそれぞれに作風や主張を持っていましたが、共通して「想像力の世界」を大切にしていたのです。
……せっかく詩を載せたので補足。
Q.なんで「虹」なの?
→1704年にI・Newtonが「光学」の中で畏怖の対象・神秘的なものであるはずの虹が7色に光る理由を科学的に説明しました。昔々は神様の武器だと思われていたのにね。当時の知識人たちはみんなこの本を読んでいたの。キーツももちろんその1人。その「無粋な行為」に対して詩の中で意見した箇所なの。
この意見に関しては1998年にR・Dawkinsが、抜粋した部分の終わりから2行目の “Unweave a rainbow”をタイトルにした著作(訳名:「虹の解体」)の中で、「科学の発展は宇宙に対する “Sense of Wonder”(驚嘆する精神)を生み、それこそが詩の源泉となる。」と反論しました。
Q.Lamiaってだれ?
“Lamia”という作品に出てくるヒロイン。上半身は人間の女、下半身は蛇の体を持つ者です。これはキーツの完全オリジナル設定ではなくて、元ネタはギリシャ・ローマ神話、R・Burtonの「憂鬱の解剖学」なの。アポロンと契約を結んで美しい人間の女の「姿」を手に入れて、人間の男性と恋をします。後で紹介するよ。
ちなみに、声に出して読むと脚韻がピタッとキマッているのを感じられます!!ぜひゆっくり読んでみてください!
……話を戻します。先の引用からもわかるように、革命も含め、急速に社会が変わっていた時代。理想の社会を求めて戦うフランス革命軍を、「世界を変えてくれるんじゃ(当時のフランスはバリバリの絶対王政、民は苦しんでおりました)……」と知識人を中心に、期待を込めて見守っていました。
革命はルイ16世その他の処刑をもって、一時は成功を収めたかのように見えましたが、やってきたのはロベスピエールの恐怖政治。それを受けてナポレオンが立ち上がりますが、一度は皇帝になるも、なんだかんだで失墜。1814年に島流しに。そしてルイ18世が即位するもなかなか国はまとまりません。そこをチャンスと見たナポレオン。軍を率いてパリを占領。また皇帝の地位につきますが、ワーテルローの戦いに敗れて権力を失います。これが所謂「百日天下」というやつです。結局フランスは元の王党派によって統治されるのでした。
人々の思い描いていた自由・平等・博愛に基づく「理想の地」は現実のものとならなかったのです。
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はい、4000字を突破です。誰の得にもならない。そしてなぜ出てくるのだフランス革命。ここまで読んでくれている人は相当な忍耐力の持ち主だから、誇っていいと思う。多分他人のすっごい細かい悩み相談とか聞いてあげられるタイプでしょ、アナタ。
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さて、なぜここでフランス革命の話を出したのか。先ほど「自由・平等・博愛に基づく「理想の地」」という言葉を使いました。実はここにミソがあるのです。
そういえば、「復楽園」という言葉をご存知でしょうか?
最初につくられた人間、アダムとイヴ。2人はすべてが整った楽園で、邪なことを思うことなく、死ぬことのない体と無垢な心を持って暮らしていました。しかしある時、蛇に唆されて、2人は「絶対食べちゃダメだよ。」ときつく言われていた、命の木に生っている知恵の実を食べてしまいます。
するとどうでしょう、「キャー!裸じゃん!」今までなんとも思わず、すっぽんぽんで暮らしていたのに、焦って局部を隠しだす2人。タブーを犯してしまった二人は楽園を追われてしまいます。そう、これが「失楽園」。
そしてこの原初の人間が犯したタブーは「原罪」と呼ばれ、キリスト教の世界では、その末裔である私たち人間は、みな「原罪」を背負っているとされているのです。
その罰として私たちに降りかかったのが死(時間)と情欲。(でもこれ上手くできてる。だってムラムラっときて、やることやらないと「人間」という種は途絶えちゃうからね。)……この辺ほじくり返すと文量が倍になるので勘弁してください。
こう書くといかにも悪いことのように聞こえてしまいますが、知恵を授かるということはモノを知ることにつながります。小さな子供が初めて「これは、ねこさん!」と言うと、親は「わー!『わんわん』と区別がつくようになったのねー!」と喜びますよね……。
ハイ!ここ大事!!!知恵の実パクー →知恵ゲット →AとB、自己と他者の区別がつくように →自己を持つ→ 自我の目覚め!!人は賢くなりました!!
無垢すなわち無知なり。
だから知恵の実を食べた瞬間に自己のない世界から切り離されて、お互いの「区別」がつき、恥を知って局部を隠したのでしょうね。
そこで詩人(芸術家たち)はこんなことを考え、目指すようになりました。
楽園→ 失楽園(今ここ)→ 復楽園(目指すもの)
=
Innocence→ Experience(今ここ)→ Higher-innocence(目指すもの)
彼らは「自由・平等・博愛」を掲げたフランス革命を現代版「最後の審判」と捉え、「復楽園」現実世界に起こることを祈っていたのです。でも失敗。
ならば、自分たちの心の中にもう一度楽園を!原罪を負った身だが、精神や思考の力で、より高次な、知恵を持った状態の無垢→ Higher-innocenceを「復楽園」としよう!
そんな考えがロマン派の詩人たちにはありました。人間の可能性を信じていたのです。これはロマン派特有の楽観的考え。
他にも今までの時代と異なるのが、自分の作品の創造主となっていること、主観と客観のすり合わせを試みたこと、そして回想や他のものへの共感が作品の中にみられることです。
共感て、他人の立場に立って、他人の心の中に入り込むようにして行われますよね。それは想像力がないとできません。その意味ではロマン派文学は「(創造)想像力の文学」と呼ばれるのではないか、と個人的には思っています。
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はい、これで「なんとなーく」誤魔化し誤魔化しのロマン派についてのうんちくを垂れ終わりました。
こんなになると思わなかった……1/10の字数で済むと思ってた。これ、とりあえず成仏させるためにブログに載せるけど、運よく有識者の目に留まって、運よくご指摘いただけると最高だな。
次の記事でやっと「私のおすすめ作品」について書きます。
でもこれから趣味欄に:「学生時代の諸々を引っ張り出して、なんやかんやすること」って書けるな。紹介になってないな。諸々、なんやかんや。