変わり玉記録帳

日記・文章を載せる場所。個人文章道場も兼ねる。脳みそ断片保管庫宇宙本部。

「ひきつけられる」手(課題作文)

 これも提出する課題作文です。今までで一番自由度の高い作文だったので、テーマが提示されてから今まで、ずっとウンウン唸ってました。他にも候補はあったんだけれど一番具体的な像が浮かんだのがこの手の話だったのです。、「書きたいことネタ帳」にも書いてあったし、これでいくか、と散歩しながら、決めました。

以下提出作文。

 

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気が付くと他人の手を見ている。小学生の頃、ピアニストが学校に来た時も、周りが一心に演奏に耳を傾ける中、私は鍵盤の上で休みなく動く手を見ていた。また、これは自分でも驚いたのだが、料理を振る舞ってくれるという友人に頼み込んで、台所の隅に座らせてもらったことがある。もちろん作業する手を見るために。ブラインドタッチの手、慣れた手つきで化粧を施す手、すらすらと数式を解く手。そう、私は「他人の淀みない動作、特に、『手』の動き」に吸い寄せられてしまうのだ。

 

 これらの共通点は、手は能動的に動いているはずなのに、こちらから見るとまるで次の手順に勝手に引っ張られていっているように見える、ということだ。工場で見る規則正しい機械にも感動する。しかし、より人間の手に惹かれるのは、毎回狂いのない動作は出来ないはずの人間が、半分機械になったかの如き、無機質な穏やかさを宿すからだろう。手を動かしている本人もその正確さや、心地よい運びに気付かず、平然と物事を進める。迷いのない手際の良さと、無表情な横顔から垣間見える、個人に蓄積されたものから生まれた「習慣」や「癖」を思うことが大好きである。機械仕掛けの先に見える人間性や、隠れた情を、とても愛しく思えてしまうのだ。

 

 手は、あなたの知らないところで、私に様々なことを伝えてくる。私は今日もどこかで、誰かの手をじっと見つめるのだ。